タクマ電設
埼玉から農業の未来を温めたい
自動制御機能付きヒーター

それは同級生だった
農家の悩みから生まれた
吉岡 自動制御機能付き農業ヒーターを開発され、埼玉県の経営革新計画として承認されました。日本の農業の救世主ともなる可能性を秘めたヒーターですが、開発のきっかけは何だったのでしょうか。
萩原 いちご農家を始めた同級生、佐久間くんの悩みでした。私はもともと、工業用ラミネーターのメーカーに勤め、電気関係まわりの設計などを担当していました。そのような中で、故郷である埼玉県に戻り、独立を決めたのです。その頃、私と同じ時期に故郷で起業した佐久間くんの悩みを聞きました。
佐久間 ハウスでいちご栽培を始めたのですが、暖房で温めるので気温にムラが出て安定しませんでした。その話をしたのです。
萩原 もともと自分で何かを開発して、社会に貢献したいという思いがありました。佐久間くんの悩みを聞き、もしかして「ラミネーターの技術を応用すれば、電気で土の中をあたためられるのではないか」と考え、試作品を作り始めたのです。
吉岡 土に被せられたシートと上部にある制御装置がそれですね。
萩原 いわゆる鉛筆の芯で知られる黒鉛を固めたシートを埋め、温度調節器で自動制御する仕組みです。設定温度は15度で、気温が下がると自動であたためます。製造については、知見のある会社にOEM開発・製造を委託しています。佐久間くんの現場の声をいただいて、今後も改良をしていく予定です。
成長速度を飛躍させる
遠赤外線ヒーターとは
吉岡 まだ試験段階ですが、どういった感想をお持ちですか。
佐久間 正直、このヒーターが設置された土と、設置されていない土の部分では、いちごの発育が全く異なるので、驚きました。
萩原 いちごは佐久間くんの協力を得ながらデータを取得しています。実は米の育苗に関してはすでに7〜8日といったデータを取得。この数字は通常の成長率の4倍になります。アスパラガスについても同程度、成長が加速するというデータが出ました。さらに嬬恋村のキャベツ栽培で試験を始めており、それ以外の農作物、育苗なども形状改定して応用する予定です。
吉岡 具体的にいちごはどの程度、収穫が変わると予想していますか。
萩原 実はもっと細いニクロム線ヒーターでも生育率が140パーセントも上がるというデータがあります。これは遠赤外線の技術を使っているので面で芯まであたためるため、170パーセントを予想します。
佐久間 いちごは根とクラウンが大切です。このヒーターは上部と下部に合計3枚が埋まっており、重要な部分が温まります。
吉岡 導入も簡単だそうですね。
萩原 いわゆる土に埋めるだけ。施工も楽で、導入したい箇所に部分的に使えます。
CO₂削減という社会貢献
次はフードロス対策
吉岡 経営革新では、省エネルギーである点が評価されたと聞きました。
佐久間 チューブにお湯を入れる従来の方式は燃料代が高く、ムラがあり、冷めてから再びあたためるので、コストがかかっていました。燃料は年々高騰しており、重油など化石燃料を使わないエネルギーは、CO₂削減にも貢献できるのでありがたいです。
萩原 エネルギーについて、ゆくゆくは太陽光を考えており、今回の万博でも注目されている『フィルム型ペロブスカイト太陽電池』を使えないかと考えています。
吉岡 農業では初の規格ですか。
萩原 はい。農業には、この技術が使われていませんでしたが、実は道路の融雪といった分野には使われていました。それを農業に応用したカタチです。
吉岡 他にも萩原さんと佐久間さんで取り組んでいる開発があると。
萩原 いちごを乾燥してパウダーにする開発です。これは水分が多すぎてパウダーにできないと言われていた農園のいちごを、ヒーターを応用した乾燥機を使用して加工することで、パウダー化が可能になりました。規格外や劣化したいちごは冷凍か廃棄がスタンダード。これなら品質を劣化させることなく、フードロスの分野でも役立ちます。いちごだけでなく、キャベツやとうもろこしなど、他の野菜や果物のパウダー化も可能ですので、今後開発を重ねていきたいと思います。
吉岡 今後の抱負を教えてください。
萩原 私の父もここ埼玉県で経営革新を取得しました。ですから今回は親子二代での取得になります。佐久間くんと課題に取り組めたのも良かったです。今後は、いろんな作物に広く展開し、食料自給率というところでも貢献したいです。3〜5年が経ったときに、数字がついていけば、県のモデル企業となるそうで、それも挑戦したいです。
吉岡 今後の展開も目が離せません。


[ Column ]
萩原さんと同時期に創業した『Strawberry Base』は、埼玉県のオリジナルブランド『あまりん』と『べにたま』を育成。パック販売の他に、いちご狩りにも注力。収穫期は12月から5月末ぐらいまでとのことで、取材時も忙しく、その週末の日曜日には46名もの人が訪れた。農業用ヒーターの導入により売上向上も期待できる。
[ Point ]
『べにたま』と『あまりん』をいただきました。おいし〜い!甘〜い!とれたてだから、味の濃厚さが違います。ちなみに、新開発のいちごパウダーもいちごの味が濃厚。食材ロスにも貢献できるという、社会に役立つパウダーの商品化が待ち遠しいですね!
■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■
タクマ電設
代表 萩原 卓磨
埼玉県比企郡吉見町江和井1644-27
TEL.080-3315-8848
https://www.takuma-e.jp
【Strawberry Base】
埼玉県比企郡吉見町上細谷高畑199
TEL.090-1139-0015
■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■

