山荘松屋
八百年の歴史を守る宿の志
「人の情け」を届ける信念

家業継承という名の再出発
真心を軸に据えた宿の矜持
藤波 『湯平温泉』は800年の歴史を誇り、かつては九州屈指の湯治場として栄えたと伺っています。古長さんは4年前、33年という長いサラリーマン生活を経て、故郷であるこの地に戻られたそうですね。
古長 はい。以前は「絶対に継がない」と考えていた時期もありましたが、高齢になった両親と、20年以上も現場を守り続けてくれた妻の存在が、私の心を動かしました。宿の前に続く石畳や、幻想的な赤提灯が灯るこの景観を次代へ繋ぐことは、今の私に課せられた使命であると感じています。
藤波 現在は海外からのお客様も非常に増え、高い評価を得ています。言葉の壁を越えて、山頭火も愛した「人の情け」を伝えるために、現場ではどのような工夫を。
古長 多言語の定型文を用意するなどの効率化は図っていますが、根底にあるのは「心を込める」という一点に尽きます。駅からの送迎の時間も、お客様との大切な対話の機会。冷たい雨の中でも、宿の温もりに触れて涙したという山頭火の句のように、心に寄り添うおもてなしを追求しています。
藤波 改装を経て働きやすさを改善される一方で、客室数を限定するなど、安易な規模の拡大を追わない姿勢が明確です。
古長 客室を増やすことは、経営者としてプレイヤーから退くことを意味します。私自身が直接お客様と接し、確かな信頼関係を築ける規模こそが、当館の理想とする「心安らぐ宿」の姿です。家族経営の良さを生かし、たとえ非効率であっても決して手を抜かない。それが地域の独自性を守ることにも繋がると信じています。
藤波 地域のイベントなど、街全体の活性化にも尽力されています。これからの湯平、そして松屋が目指すべき未来についてお聞かせください。
古長 水害からの復興や後継者問題など課題は山積していますが、まずは私自身が覚悟を持って、この暖簾を守り抜くことです。子供たちの意向を尊重しつつも、この誇りある仕事の魅力を自らの背中で伝えたい。この石畳に提灯の灯が絶えることのないよう、地域一丸となって持続可能な観光地づくりに邁進する決意です。
藤波 地域一体となった成長に期待します。

[ Point ]
石畳の坂道に息づく伝統を、理性的な経営判断と情熱的な誠実さで守る古長氏。その言葉からは、歴史ある家業という重い責任を「喜び」へと昇華させた一人の表現者としての気概と、地域への深い愛情を感じました。
■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■
山荘松屋
古長 一彦
大分県由布市湯布院湯平803-1
TEL.0977-86-2151
https://sanso-matsuya.com
■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■〓■




















